雲を鳴らす

2025年3月21日金曜日

CMM 東京文化会館

 

 舞台芸術を楽しめると聞き、東京文化会館を訪れた。入口を抜けると、辺り一面に広がっていたのは奇妙なオブジェ。想像していなかった不思議な空間に違和感を抱きながら、席に着く。



 東京・上野にある東京文化会館は、1961年に開都500年記念事業として竣工された。「首都東京にオペラやバレエもできる本格的な音楽ホールを」という目的のもと、近代建築の巨匠・前川國男によって手掛けられ、現在も音楽の殿堂と称されている。前川は、音楽ホールの建築方法を知る数少ない日本人建築家であり、日本のクラシック音楽の幕を開いたとも言われている。

 

 暗闇に包まれたホールの中で、唯一照らされたステージ。その中央で指揮棒が天高く振りかざされた瞬間、息を呑んだ。指揮に共鳴して奏でられる繊細な音と一体感のある動きに魅了され、客席全体が一気にステージに吸い込まれていくのを感じる。聴衆の沈黙にのせて、演奏もさらに迫力を増していく。


天井, 屋内, テーブル, 座る が含まれている画像  自動的に生成された説明


演奏が終わると、思い出したかのように息をした。周囲には深く呼吸する人もいて、皆で夢中になって演奏に参加していたことに気がついた。次第に沈黙は盛大な拍手や歓声へと変わり、会場全体に響き渡る。抑えていた感動がステージに向けて一気に発散されてゆく。


 演者と聴衆のコミュニケーションによって完成される舞台芸術。演者が表現をして完結するのではなく、それに合わせて聴衆も沈黙や拍手をする。その表現はステージ上へと伝わり、演者もさらに表現を変えてゆく。前川が手掛けた東京文化会館のホールは、全ての人がより熱狂しながら協演し、作品をつくりあげるための“最後の楽器”として大きな役割を果たしていた。


 ホールの壁一面を埋め尽くす奇妙なオブジェは、時の流れを表す「日の入りと日の出の雲」をイメージしている。素材や形など細部までこだわり抜かれ、音響を計算しつくされて完成した。調和を保ちながら音を拡散させる役割を持つこの雲こそが、音を繊細に映し出す奇跡の音響を実現させていた。


 ホールに響くすべての表現が重なり、今日限りの作品が完成する。入退場の足音、休憩中に溢れる吐息、閉演後の賑わいもまた雲に乗って響く。ただ聴くだけだと思っていた私たちは、会場に入って最後の楽器を奏でる最初の演奏者であり、最後の演奏者だった。


 聴くだけではない。演者と協演して私たちの演奏をつくり出せるミュージアムが上野にはある。誰もいなくなったホールを後にして、この日最後の音を奏でた。


建物の間の道路  中程度の精度で自動的に生成された説明



住所:東京都台東区上野公園5-45

アクセス:JR上野駅公園改札から徒歩約1分, 東京メトロ上野駅7番出口から徒歩約5分

開館日:上演の有無は各月による。

音楽資料室は、火~日, 祝日。

開館時間:10:00~22:00

音楽資料室は、火~金 11:30~18:30

            土・日・祝日 11:30~17:00

キャンパスメンバーズが使える範囲:公演チケット学割あり。音楽資料室は無料で利用可能。


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