唯一の「庭園」

2024年8月19日月曜日

CMM 東京都庭園美術館

 

 美術館を訪れた際、その厳かな雰囲気に圧倒された経験はないでしょうか。ここでは室内で展示を見ながらも、外の自然を感じてのびのびと過ごせる東京都庭園美術館をご紹介します。


 東京都庭園美術館。その名前から、庭園を楽しみにやって来た。しかし、入り口から一本道を進んだ先には豪華な建物がそびえ立ち、大勢の人々が向かう。この建物は何だろう。

 建物とは、1933年に皇族・朝香宮家の両陛下がフランスで魅了された直線的で装飾的なデザインが特徴のアールデコ調を取り入れ建築した邸宅だった。その後、迎賓館や首相官邸としても使用された。圧倒的な存在感と歴史を持つ邸宅があるなら、ここは朝香宮邸記念館と名付けそうなものだが、なぜ庭園美術館と言う名前なのだろう。

 邸宅を横目に庭園のマップを開くと、芝庭、日本庭園、西洋庭園と3つの庭園が並んでいる。最初に入った広大な芝庭は、綺麗に整えられえた芝生の上に白く大きな『風』と言うオブジェが佇み、涼しさを感じる。

 水の音に誘われて日本庭園に入ると、青く透き通った神秘的な池を中心に起伏の多い道と複数の橋が囲んでいる。青い池には気持ち良さそうに鯉が泳いでいて、彼らを見ていると時間を忘れてしまう。奥に進むと、ひっそりと茶室が佇んでおり、一期一会と書かれた掛け軸が訪れる人々を和ませる。

茶室から出て橋を渡ると、真っ白のベンチでピクニックを楽しめる西洋庭園にたどり着いた。パラソルの下に集まる家族、のんびりと木の実をついばむスズメや、ゆっくりと落ちるワシントン桜といった景色に、心が休まる。

今度は豪華な邸宅の中へ入る。庭園とはガラリと変わった雰囲気に身構えながら歩いていると、庭園に咲いていた花木や植物、庭園の池を泳いでいた鯉に似た模様が目に止まった。壁紙には森林や水が描かれ、さっきまでいた庭園の風景を思い出させる。



壁紙だけでなく、展示品の配置も庭園への意識を感じる。当時は、実際に香水としても使用された室内用噴水器である香水塔は、窓の外に見える水の流れと繋がるように考えて置かれたという。


ふと窓を覗いてみると、外の景色と邸宅の内装が繋がって見える。まるで、重厚な邸宅内にいながらも外の庭園が続いているようで、気づけば足取りが軽くなっていた。もしかしたら庭園美術館という名前には、邸宅と庭園をあわせて味わえるという背景があるのかもしれない。    

もうすぐ閉館の時間。こんなに長く美術館にいたのは初めてだった。邸宅と庭園が調和した「庭園」美術館という唯一無二の空間に夢中になっていた。

 

全く別物かと思っていた邸宅と庭園だが、調和し合うことで新たな庭園の姿を見せてくれた。今日も東京都庭園美術館では、ここでしか味わえない「庭園」が広がっている。



[アクセス]東京都港区白金台5丁目21−9

  都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6

[開館時間]10:0018:00 入館は17:30まで

[無料で見られる範囲]学生証の提示で庭園の入場無料/展覧会の割引あり

   (2024710日時点)

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