写して伝える

2024年8月23日金曜日

CMM 東京都写真美術館


写真は美術館で「見る」ものだろうか。スマホで誰でも写真を撮ることができる今、東京都写真美術館で写真を「見る」と、大切にされた記憶、時代、表現の中に没入する体験を楽しめる。


 お洒落で、写真を撮りに来たくなる恵比寿ガーデンプレイス。ここには、写真と映像のミュージアムがある。

東京都写真美術館が開館したのは1995年。この年は阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件に日本社会が衝撃を受け、報道写真への注目が高まった年だった。

写真は過去の出来事の一瞬の凍結。写真によって、自分では直接見えていない、世界の驚くべき瞬間が見えるようになる。そして、複写され大勢の人に記憶が共有されていく。しかし写真を誰でも簡単に撮れるようになった今、写真の文化が忘れられつつある。そのため写真が社会や芸術にどのような役割を果たしているのかを伝え、変遷する写真文化を忘れないよう保存する場所として、常設展のない東京都写真美術館ができた。

また、東京都は「写真文化施設の設置」を目指しており、サッポロビールは恵比寿工場跡地に文化都市を創る構想を発表していた。双方の願いが叶った場所として選ばれたのが、恵比寿の地だったという。

恵比寿ガーデンプレイスは、非日常の楽しみの提供を目指している。そんなガーデンプレイス内にある写真美術館は世界的にも希少な美術館であり、普段触れることのできない写真を見ることができる。


 白黒写真がいくつも並んだ部屋に入ってみる。何世代も前の時代に来たような不思議な感覚。じっくり見ていくと、幾何学的な写真と出会った。何を写し、意味しているのか分からなかったが、どこか印象的だった。次へ次へと進んで行く。出口が近づきその存在を忘れかけた頃、再び同じ写真が展示されていた。見間違いかと目を疑い、急いでさっきの写真のもとへと戻る。どちらもラースローの『無題』という作品。頭の中は「なぜ?」でいっぱいになった。

2枚目の展示のそばに書かれていた「木村専一」という名前をもとに、足早に「写真と映像に関する専門図書室」を目指した。4階にあるこの図書室では、開催されている展示会に合わせて本棚が次々に作りかえられていく。本を読んでみると、2枚飾られていた写真の片方は雑誌「フォトタイムス」の編集主幹であった木村が欧米の写真情勢を視察しに行った際、譲渡された複写作品であることが分かった。

展示室に戻ってみる。すると、2枚の写真は異なるテーマの中にあった。1枚目はこの写真が撮られた年でもある「1924年」、そして2枚目は「時空の旅」がテーマ。1枚目の非現実的な撮り方には違和感を覚えた。しかし写真の在り方が時代とともに変化し、2枚目の時期になってその技術が木村によって再評価されたのかもしれない。         
 他のアート作品とは違い、写真は原本の複写ができる。あらゆる場所でまったく同じ写真を同時に見ることも可能で、複写することで別のテーマを渡り歩く面白さを感じられる。

ただお洒落な場所にある美術館ではなかった。歴史を、社会を伝えるために展示が変わり続けていく。また非日常を体験するために、写真を見に来たくなる。


 [アクセス] 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
                 JR「恵比寿駅」東口から徒歩約7分
 [開館時間] 10:00-18:00(木・金曜日は20:00まで)
 [無料で見られる範囲] 収蔵展は無料/企画展は割引

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