「どこか行きたいな」
そんな物足りなさを感じている学生ならば、京橋にある国立映画アーカイブ(NFAJ)に行ってみるのも良いかもしれない。
持ち物は学生証という名のパスポートだけ。ここには1952年まで「日活」と呼ばれる、日本最大級の映画会社があった。「映画の町」と呼ばれる京橋にはかつて東映本社ビルや大映本社ビルも建ち並んでいた。
NFAJは、62か国 92都市にある映画保存機関が集う国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)に日本を代表して所属する。加盟国と協力し、国外に散逸した日本のフィルムの収集だけでなく、相互に所蔵品を貸借し、国際的な文化交流を行っている。この繋がりを活かし、映画フィルムの保存だけでなく、復元・公開をし、私たちを映画の歴史へと連れていく。
展示室への矢印にいざなわれて、映画の歴史に足を踏み入れる。そこは旅行ガイドブックの1ページ目のようだ。映画文化を形作ってきた重要な映画のポスターや撮影機、台本や映画に使われた道具まで。これらのノンフィルム資料が詰まったガイドブックは、ほとんどが個人寄贈者によって作られている。フィルムが既に失われていても、残されたポスターなどによって当時の映画の詳細や空気までもが感じられる。
最後のページを読み終えた時、もっと映画の歴史に入り込みたくなる。気づいたら、時代旅行のチケット売り場に並んでいた。
初めていく時代に不安と期待を募らせながら、映画館に入っていく。綺麗な状態でフィルムを未来に遺すため、同じ映画の旅行は3回まで。選び抜かれた行き先は時期によって変化する。思っていたよりもスクリーンは小さく、客席も少し狭い。真っ暗な部屋に映像が流れ、静かな旅行が始まる。展示室で見た白黒の世界が広がり、実際のフィルムの摩擦音が聞こえる。ついさっき知った歴史の答え合わせのようだった。
話し方も、着ている服も、生きている時代も違う登場人物たち。舞台は日本なのに、違う国に来たみたいだ。
現代の日本に生きる私たちには、強烈な家父長制が当たり前の社会が衝撃だった。だが、互いに素直になれず、すれ違い続ける主人公と友人の姿には懐かしさも感じる。時代を超えて大きく変化したもの、変化していないものが私を惹きつける。違和感を覚えながらも最後まで席を離れられなかった。
90分後には、あっという間に終わってしまった寂しさと、自分の時代に戻ってきた安心感に包まれる。しかしその安堵が少しずつ居心地の悪さへと変わっていく。自分が溶け込んでいたはずの世界が、なぜか遠く感じる。旅行前の自分では決して抱かなかった今への疑問が浮かんでくる。本来なら数千キロの移動を遂げた先に感じられるこの感覚を、京橋だけで体感したのだ。
現代と異時代の往復を繰り返し、私たちに新感覚の旅行を提供してくれるNFAJ。これからも古くて新しい行き先は増え続ける。
[アクセス] 東京都中央区京橋3丁目7-6 東京メトロ銀座線 京橋駅から徒歩1分
[開館時間] 火曜日~日曜日 11:00~18:30
[無料で見られる範囲] 展示室・所蔵作品上映は無料/特別上映は割引料金/共催上映は無料または割引料金
[開館時間] 火曜日~日曜日 11:00~18:30
[無料で見られる範囲] 展示室・所蔵作品上映は無料/特別上映は割引料金/共催上映は無料または割引料金
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