賑やかな美術館

2024年8月30日金曜日

CMM 東京国立近代美術館

 

美術館に行ってみたいけど、少し近寄り難いな…」という方も多いのではないでしょうか。美術に詳しくないと、作品を理解するのは難しそうに感じます。この記事では、そんな方におすすめの美術館を紹介します。

 

 一人で静かに鑑賞する。
 そんな美術館の常識を覆す、日本一“賑やか”な美術館が東京・竹橋にあるらしい。


 竹橋駅から徒歩3分。大通りに面したこの巨大な建物は、日本で最初の国立美術館、東京国立近代美術館(近美)だ。MOMAT展と呼ばれる所蔵作品展では、19世紀末から今日までの美術を一気に辿ることができる。

そんな近美は、対話で作品を楽しめるのが特徴だ。


 まずは壁に書かれた「匂いはしてきますか?」という問いかけに合わせて、じっくり五感を研ぎ澄ませてみる。そこにあるはずのない木の匂い、水の音、柔らかい木漏れ日。壁の問いかけは、私たちをあっという間に絵の中に引きずり込む

 
 別のブースに来てみると、手の彫刻が展示されている。この手はどうなっているのだろう。下の解説に目を向けてみる。「一見複雑そうなこのポーズをまねるコツをお教えしましょう。」語りかけるような口調につられ、いつの間にか手が動いていた。話しかけてくる解説と一緒に作品を見ていると、一人で美術館に来ていることを忘れそうになる。


 作品や解説との対話だけではない。近美には、その日限りのガイドスタッフ、その日限りの参加者との対話を通して、作品を新たな角度から楽しむイベント、「所蔵品ガイド」があるのだ。

 
 ある日の所蔵品ガイド。「真ん中の人はただ走ってるんじゃなくて、パン泥棒なんじゃないかと思うんです。」年齢、性別、経験、価値観が全く異なる参加者の意見にハッとした。同じ作品を見ているはずなのに、目に浮かぶものは全く違っていた。スタッフ、参加者との対話を通して様々な人の視点が入り込む。いつの間にか、同じ作品だとは思えないほど、作品の見え方は変わっていた。

一人で静かに鑑賞するだけだと思っていた美術館。終わってみれば、ずっと誰かと話していたような感覚だった。頭上を飛び交う絶え間ない対話。この賑やかな空気に包まれて、心ゆくまで自分も対話する。

対話は、ただ人と人が話す会話とは違う。お互いの表現を受け止め、異なる視点を得て影響を及ぼし合うこと。この対話を交えた鑑賞方法は対話型鑑賞と呼ばれ、80年代、ニューヨーク近代美術館で誕生した。一方通行の作品解説ではなく双方向の対話を通じて、入り込みにくい作品の世界にも足を踏み入れてみることができるのだ。


 外に出ると、通りを車が走り去る。耳に飛び込んでくる騒音に、初めて美術館が静かだったことに気が付いた。館内でしていた対話の余韻で、外の世界も少しだけ“賑やか”になったような気がした。

近美は静かな対話が飛び交う日本一“賑やか”な美術館。今日もその日、その人とだけの対話が飛び交っている。



[アクセス]〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1

東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口より徒歩3

東京メトロ東西線,半蔵門線,都営新宿線「九段下駅」4番出口より徒歩15分

東京メトロ半蔵門線,都営新宿線,三田線「神保町駅」A1出口より徒歩15

[開館時間]火~日曜日(月曜休館日、祝休日は開館し翌平日休館)

      1017時,金・土は1020

[無料で見られる範囲]所蔵作品展(MOMAT)は無料/企画展は割引

 (所蔵品ガイド日時:平日 141450分, 土日・祝日 111150)

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