倍速でYouTubeや映画を観る時代。タイパやコスパといった効率性が重要視される、“消費社会”の渦。トーハクでは、そんな渦から抜け出した、新しい“消費”が待っている。
東京国立博物館(トーハク)は、日本最古かつ最大の博物館。1872年(明治5年)、湯島聖堂博覧会の展示を恒久的に残すために建てられた。それから約150年間経つ今もなお、どっしりとした存在感で日本の歴史を守り続けている。
建物を目にした瞬間、佇まいに圧倒される。瓦屋根を冠ったコンクリートの建物が、腰を据えて入場者を見下ろす。
鬼瓦に睨まれながら、恐る恐る入り口を抜けると、正面から迫るような大きな階段が目に飛び込んでくる。壁を見るとモザイク柄で彩られていたり、美しい幾何学模様が施されていたりと、多様なデザインが詰め込まれている。天井には、宮殿にあるような豪華なシャンデリアが輝き、大階段の踊り場のステンドグラスから美しい光が漏れ込む。
展示室内に足を進めると、絵画や仏像、茶碗、花瓶、図鑑、手紙、コイン、お面、刀に着物まで、部屋ごとにジャンルの異なる品々がずらりと並んでいる。高価なものから、日用品まで、幅広い種類の展示品たち。とても一日では回り切れない。
展示品をひとつひとつじっくり見てみると、ただの日用品も、素朴な掛け軸も、江戸時代の日常を描いた浮世絵も、どれもガラスの向こうで煌々と美しく存在を放っている。
まるで作品に吸い込まれたように、想像が広がる。「わたしたちの魅力に気がついた?」と言わんばかりに浮世絵の女性が語りかけてくる。かと思えば、隣ではお釈迦様が静かに悟りを開いていた。見れば見るほど、目の前で繰り広げられる歴史に、心がのめり込んでいく。
トーハクは、縄文時代から現代までの、人々の遺産で溢れている。どの時代に中国の文化が日本に流れて花を咲かせたのか、意外なもの同士の結びつきなど、ありとあらゆるものがあるからこそ、歴史の繋がりが、当時の情景と共にありありと浮かんでくる。
教科書では感じなかった、臨場感や、歴史の存在感を強く感じる。自分が今、永く長く受け継がれてきた歴史の上に立っているのだと気付かされる。
年間約400回もの展示替えが行われているこの場所には、訪れる度に見えてくる繋がりや、新しい気づきに出会える面白さがある。
効率を重視した世界では膨大な量の情報が右から左へとたれ流れる。トーハクで浴びるたくさんの情報も、全てが残るわけではきっと無いが、これがただの消費だとも思わない。
歴史はどれだけ"消費"しても無くならない。頭の中にぎっしりと蓄積され、歴史の重みをその身で感じることができる。
洗練された空間で、日本や各国の歴史を、時代や空間を超えた繋がりの中で旅できる場所。
そんなトーハクが150年もの間大事に紡がれてきた理由が少し分かった気がする。
[アクセス]JR上野駅公園口、または鶯谷駅南口下車 徒歩10分
[開館時間]9時30分~17時00分 毎週金・土曜日は~19時00分(入館は閉館の30分前まで)
[無料で見られる範囲]常設展/無料 特別展/1100円または500円引き
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