公民館

2025年4月7日月曜日

CMM 東京都美術館

 

 初めての美術館巡り。アートの入口と言われる東京都美術館(都美)を訪れた。


「いつでも美術に触れることができる場が欲しい」。1926年、石炭商である佐藤慶太郎の巨額の寄付により開館した。都美では、他の美術館と同じようにゴッホ展や岡本太郎展など様々な特別展が開かれている。今回は「ノスタルジア―記憶のなかの景色」という特別展に足を運んでみた。



一枚の絵を見つめてみる。作者はどんな思いで描いたのか。答えを探しに隣の解説パネルを一読する。「地震や災害で、一瞬にしてこの風景がなくなることがあるかもしれない。」視線はもう一度作品へ。目の前の作品からは見慣れた風景のいとおしさを感じるようになっていた。いつの間にかノスタルジックな世界観に引きずり込まれていく。


フロアマップを見ると、巨大な公募棟という場所があることに気が付いた。早速足を運んでみる。真っ白な壁と不自然に白い照明で、美術館にいることを疑うほどに質素な空間だった。



展示室には、名の知れていない作家の作品が並ぶ。地元の小学生の作品、書道コンクールの作品、シャッターが閉まった商店街の写真。作品と作家の名前だけがずらりと並び、ところどころに優秀賞と書かれた薄い紙が貼られている。美術館に来たはずなのに、知らない地域の公民館のようだった。 


作品説明のない公募展ならではの楽しみ方って何だろう。もう一度作品に向き合ってみる。


さっき見たシャッターが閉まった商店街の写真。よく見ると、空は明るいのにどこか暗さも感じられる。どんな作家かはわからないが、商店街が活気づいていた時代を生きていたのかもしれない。どこか寂しさを感じるとともに、いつも素通りしていた薄暗い商店街を思い出した。


気が付くと、この作品の前で30分以上考え込んでいた。公募展は特別展と比べて1つ1つの作品の説明も作家の説明も少ない。だからこそ、作家が何を表現しようとしているのかじっくり向き合い、自由に想像することができる。


公募展示室を出ると、ふとポスターが目に入った。「ろう者・難聴者・聴者がいっしょに」。


さまざまな「きこえ」の参加者と、アート・コミュニケータ(とびラー)が一緒に作品を鑑賞する。とびラーは学芸員や芸術大学の専門性を持ったスタッフと共に、美術館を拠点に活動を行っている。作品を介して、関わったことのない人との新しい交流のきっかけとなってくれるのだ。

会話や手話など、それぞれが常識となっているコミュニケーションから抜け出し、異なる「きこえ」の相手に伝えていこうとする。イベントを通してアートによって生まれる縁を体感した。



特別展から公募展まで幅広い楽しみ方ができる都美。公民館のように誰にでも開かれ、新たな交流のきっかけの場にもなっている。地域の縁というよりも、アートという縁でつながれた公民館なのかもしれない。


初めての美術館。都美だけで色んな美術館に行ったような、不思議な感覚があった。




住所:東京都台東区上野公園8-36

アクセス:JR上野駅「公園改札」より徒歩7

東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10

京成電鉄京成上野駅より徒歩10

開館日:第2、第4月曜日、火曜~日曜日

開館時間:9:30~17:30

キャンパスメンバーズが使える範囲:公募展は無料/企画展は一部無料


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