共に生まれ変わる

2025年3月21日金曜日

CMM 国立新美術館

  

 港区六本木。ここには、コレクションを持たない日本初の国立美術館、国立新美術館(以下、新美)がある。全国規模の公募展に特化した美術館として2007年に開館した。国内最大級の展示スペースでは、一度に10以上の展覧会が同時進行していることもある。

 新美は、建築家・黒川紀章が、建築理念「メタボリズム」に基づいて作った生前最後の作品。「メタボリズム」とは、細胞が古いものから新しいものへと入れ替わる“新陳代謝”のように、社会の変化に対応できる建築・都市を目指そうと、1960年に提案された運動である。加えて、異なる個々が互いを必要とする関係を目指す「共生」の概念を取り入れた。

  


新美を訪れるとまず目に入るのは、その外観。正面側の壁は、波打つ曲線を描くガラスのカーテンのよう。なぜ曲線を描いているのだろうか。このカーテンを通して差し込む光を浴びながら、館内や館外の席で思い思いの時間を過ごす人々がいた。


黒川は、壁に曲線を描かせることで、館外の都立青山公園と館内の境界を明確にしなかったという。曲線という曖昧な隔てだからこそ生まれる空間が、自然と建物の共生を可能にすると考えたのだ。その曖昧な空間は縁側にも似ており、人々に自然の恵みを感じさせている。ガラスのカーテンは、自然と建物、そして自然と人間との共生を可能にしているのかもしれない。


新美の展示室は、天井に張り巡らされたレールに沿って展示パネルが、自由自在に空間を仕切る。



 3つの展覧会を覗いてみる。

 

 企画展『田名網敬一記憶の冒険』。立体的で大きな作品や、膨大な数の作品を所狭しと展示する、パネルを抜いた開放的な部屋がいくつもあった。




企画展『荒川ナッシュ医ペインティングス・アー・ポップスターズ』。大きな展示室をパネルが大胆に区切り、所々で細い抜け道のある、まるで迷路のような展示室に変化していた。荒川が目指した絵画とパフォーマンスを融合した「生きた展覧会」らしい展示室になっていた。


 


公募展『第47回國際書画展』。ここでは、 前回までとは全く異なり、規則的に区切られた展示室へと変わっていた。作品の種類に合わせ部屋が作られ、訪れる人々が、 お目当ての作品を見つけやすいような工夫が施されていたのだろう。



「ここは、同じ展示室なのだろうか。」3つの展覧会を通し、毎回異なる姿を見せた展示室。黒川は、自由自在に移動できる展示パネルを設けることで「新陳代謝する展示室」を作った。展示パネルが、アーティストの意向に合わせた展示室を作り、新美に多種多様な表現を溢れさせている。


無縁の展示室同士が、同時期に並ぶこともある新美。著名なアーティストから、芸術家の卵たちまでそれぞれの世界観が共生することで、新美全体が自由な表現を受け入れる窓口になっているのかもしれない。


曖昧なガラスの波に吸い寄せられ、人々は、新陳代謝で生まれ変わる新美にて、無限のアートを共に作り続けるだろう。



 


住所:〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 

アクセス:東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口(美術館直結) 

東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分 

都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分 

開館日:水~月曜日(火曜休館日、祝日又は振替休日に当たる場合は開館し、翌平日休館)

開館時間:10:00-18:00(入場は閉館の 30 分前まで) 

キャンパスメンバーズが使える範囲:企画展は割引(常設展がないため)


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