出会うはずのなかった【東京】

2025年3月17日月曜日

CMM 江戸東京たてもの園

 

 和の空間にシャンデリア。銃弾が埋まる壁。


 現代では見慣れない違和感が広がる場所、ここは江戸東京たてもの園。1993年、東京都によって武蔵小金井に開設された。現地保存が不可能な、江戸から昭和中期までの建物を30軒以上集め、街並みごと復元・保存・展示する屋外博物館だ。本来なら壊されていたはずの建物たちが、ここでは生き続けている。



 順路は自由。自分の興味の赴くままに巡ることができる。今日は西から東へと周ってみた。茅葺屋根の建物が並び、田舎の静けさに囲まれている。さらに進むと建物の年代が移り変わり、洗練された木造建築が見えてきた。


 

 足を踏み入れてみる。大きな窓からやさしく差し込む陽だまり、木目調の温もりある空間に包まれ、心まで温かくなった。20世紀を代表する建築家・前川國男が、自らの理想を詰め込み、1942年に品川区で築いた自邸だ。外の世界と家の中がつながっているような感覚が心地いい。初めて訪れたのにどこか懐かしさを覚える不思議な空間だった。



 次に入った建物は、視界を覆いつくす立派な屋根の邸宅。前川邸から一転、空気がぐっと引き締まる。ここは1902年、元内閣総理大臣・高橋是清が千代田区に構えた建物であり、2・26事件が起きた舞台だ。ここで、高橋は暗殺された。



 銃を持った青年将校らが駆け抜けた階段。床を踏む度、軋んだ音が響く。当時の緊張を感じて冷汗をかいた。前川邸の開放感を味わった直後だからこそ、この邸宅が放つ重厚な空気がより際立ち、重い歴史が体に圧し掛かる。 



 暗い空気を背覆いながらさらに東へ進むと、下町の懐かしい空気に包まれ、先ほどまでの緊張感が和んできた。ジブリ映画『千と千尋の神隠し』の薬屋のモデルとなった文房具屋から傘屋、乾物屋まで、時代を感じるお店が軒を連ねる。気を張り詰めていたからか、穏やかな空間が一層心に染みる。




 特に目を引くのは、多くの来園者で賑わう銭湯「子宝湯」。1929年、足立区に建てられたここは、荘厳な社寺風の外観と、開放感あふれる内装が特徴的だ。




 脱衣所に置いてある、初めて見る赤ん坊用の体重計に驚いた。当時の光景を思い浮かべてみる。名前も住所も知らない人々が、体重計を囲み、「大きくなったね」と赤ん坊の成長を見守り微笑む。ふと、幼い頃、祖母と母と温泉に行った思い出が蘇った。


 江戸東京たてもの園は、ただ建物を見る場所ではない。忘れていた、忘れられていた過去とつながることが出来る。建物や街の空間に、体まるごと入り込めるからこそ、そこに生きた人々の営みや当時の空気を想像させ、記憶を呼び覚まし、身体で感じ取ることができる場所だ。


 今日巡った場所をもう一度マップで見てみると、【東京】を歩いていたことに気付く。たてもの園は西に自然、中央に高級住宅、東に下町と、東京の特徴を表していた。

  

 違和感溢れる【東京】を背にして、現代の街を歩く。見慣れたはずの東京に、違和感を覚えた。

                                   


住所:東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内) 

アクセス:JR中央線 武蔵小金井駅北口からバス5分/JR中央線 東小金井駅北口からバス6分/ 西武新宿線 花小金井駅南口からバス5分

開館日:基本毎週火曜-日曜日、年末年始以外

開館時間:4-9月は午前9時30分-午後5時30分/10-3月は午前9時30分-午後4時30分 

キャンパスメンバーズが使える範囲:常設展は無料/企画展は割引


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