息する展示

2025年3月14日金曜日

CMM 筑波実験植物園


 異様に大きく、変な形をした植物が並んでいる。今にも動き出しそうなその気配に鳥肌が立った。

 筑波実験植物園は、国立科学博物館の研究部として植物を収集・保全し、絶滅危惧種を中心に研究を行っている。東京ドーム約3個分の園内には、日本の植物だけでなく熱帯や乾燥地、熱帯降雨林を代表とする植物が植えられており、今日も実験が進められている。


園内を歩いていくと、うっすらと顔が濡れた。気付くと周りには沢山のシダ植物。ここに育つ210種のシダを守るため、常に広範囲にミストを噴射しているという。

 


熱帯低地雨林室に入ると、ジワジワと汗が垂れてきて、上着を一枚脱いだ。進んでいくと何か独特な匂いが漂ってきて、思わず手で鼻を押さえた。身体に匂いがつかないか心配になる。歩いていくと、見上げるほどに巨大なものが目に入った。その物体からは湯気が出て、その周囲だけさらに5度くらい暑い。まるで息をしているかのようで、その佇まいに圧倒させられる。


 このへんてこな植物は、世界で最も大きい花といわれる「ショクダイオオコンニャク」というものだそう。生息地のインドネシアでは最大約3メートルにもなる奇妙な見た目と、開花時に発生する強烈な匂いにより忌み嫌われてきた。開花前に切り取られてしまった歴史から個体数が激減し、現在では絶滅危惧種として守られている。20年に1度しか咲かないと言われている花。ここでは大切に守られて気を良くしたのか、2年に1度開花するという予測外の事態が5回連続で起こった。

  

 開花だけでも珍しいことだが、更にここでは開花した個体が実をつける「結実」と、その実から新しい生命が生まれる「発芽」に成功し、国内初となる偉業を達成した。


 なぜなのかと理由を聞かれるんですけど、花に聞いてくださいとしか言いようがないんです。


 室温調整や細菌に気を配り「新生児のように」育ててはいるものの、詳しい理由はいまだ解明されていないと園長は語る。毎日が実験の園内は、予想外から生まれる新発見の可能性で溢れている。


 

 筑波実験植物園には、厳重に所蔵された、東京の有名美術館にあるような不朽の名作はない。ここの展示物はいずれ朽ちてしまうが、それらが未来の発見につながることもある。変わり続けていくからこそ、咲くはずのない種に花が咲いている姿を見つけられる日が来るかもしれない。ここでは、息する展示が魅せる生と科学の混ざり合いを触れて匂って、身体で楽しむことができる。息をして、成長するからこそ生まれる「必滅の名作」。今日は、どんな姿で息をしているのだろう。


住所:茨城県つくば市天久保4-1-1
アクセス:TXつくば駅からバス約5分

休館日:毎週月曜日

開館時間:9:00~16:30

キャンパスメンバーズが使える範囲:入園無料


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